ジェネラル・ルージュの凱旋






正直言ってこの映画、ボク的には2通りの見方があります。一つ目は、普通に映画ファンとして普通にストーリーを楽しむ方法。そしてもう一つは、心身共に疾患を抱えて病院に通っている「患者」の立場として感じた空恐ろしさを綴る方法。この両輪があったからこそ、本作は「バチスタ」の何倍も格段に面白かったとも言えるんですけど。

そもそも、「白い巨塔」に始まり、最近では「医龍」や前作の「バチスタ」等々、大学病院の暗部を今じゃ全くタブー視しないで普通に描いた作品が多いけど、これって患者の立場からしたらもの凄く怖いよ!語る順番を全く無視して言えば、ラストで『クロ』判定され放置プレイされる患者の家族が「何で診察してくれないんですか!!(泣怒)」と叫び、竹内結子が泣きながら謝るシーンなんか、どっちの立場も切ないし。

それに堺雅人の癒着だって、法律や組織論やコンプライアンスの観点から見れば完全に懲罰モノだろうけど、そのおかげで患者を救う事が出来たと考えれば、「法律なんか知った事か」と言い切れる医師は有り難いな〜と痛感しちゃうし。そもそも救命センターを極限まで縮小しようと暗躍するなんて、「お前ら本当に医者か?(怒)」とフルボッコにしたくなるもん。

ただそれだって、組織論から見れば間違った判断じゃないし、立身出世を目指すのも当然の話で、『踊る大捜査線』風に言えば「医師は赤ヒゲ先生じゃない。会社員」という事になるんだろうけど、そんな医師には正直ボクは診察も手術もされたくはないなあ。

その一方で、自殺未遂者の病室に行って一言も喋らず何時間も過ごし、結果的にその子の癒しになった竹内結子を見ると、「こういう心療内科医にカウンセリングしてほしい」と思うもん。でも、そういう医師は「時間ばかりかけてロクに薬も処方しないで・・・」と陰口叩かれるんだよな。ああ嫌だ嫌だ。

と、ここまでは「患者」としての見方。ここからは純粋にストーリーの感想を書いて行くけど、このシリーズの入り口が前作だったから、ボクの中では「田口先生は女性」というイメージが完全に出来上がってしまい、そのせいで原作本もテレビドラマも楽しめなかったもん。なので本作もこの設定を踏襲してくれて、本当に嬉しかったです。

そしてグッジョブなのが、阿部寛の骨折。本来なら純粋に「阿部寛vs堺雅人」という構図になるんだろうけど、歩けないので動きが不自由。そこで悪く言えば真相究明に時間がかかる訳だけど、その代わりに竹内結子を筆頭とした周囲の人間の捜査や思惑や動きを追って行ける訳で、この辺はさすがだな〜と思いましたね。

でもって懲罰委員会に呼び出される堺雅人だけど、ここでの演技がもう抜群!「本来なら汚職を追求される立場の人間が、なぜかその場の主導権を握っている」という光景を何の違和感なく演じているし。もちろん、そこに至るまでの立ち振る舞いからして凄いんだけど、ボクの中では「アフタースクール」の微妙なサラリーマン役のイメージが強かっただけに、このギャップも脱帽モノだったね。最初は飄々としているのに、いきなり激情して他の教授連中を非難する所なんか圧巻だったもん。

と、そこへ発生する大惨事!これに対し、数年前に「仕方なく受け入れ拒否」した屈辱をリベンジする算段を立てていたのか、懲罰委員会を平然とバックれて受け入れ準備をスムーズに展開!まさかロビーも治療の場にしようなんて、普通は考えないよ!でもって阿部寛も権力を使ってドクターヘリ発動!ただこの光景、どっかで見た事あるな〜と思ったら、石原さとみ主演ドラマ「ナースあおいSP」とほとんど一緒なんだよね。あっちでは看護婦なのに主役だから場を仕切ってたのが、この映画を見ちゃうと不自然に思えるけど、その辺の話を始めると脱線するので控えておきます(苦笑)

で事故の被害者救済も無事終わり、堺雅人への処分に話が変わる訳だけど、「ボクは個人的利益供与なんか受けてないですよ」と言うのに対し、「言いましたね(ニコリ)」とチュッパチャップスの領収書を指し示す竹内結子!この場面だけを見ると、「田口先生って、実はもの凄く有能じゃん!」と思うくらいの攻防だったよ!完全に病院長なんか蚊帳の外だったし。ここでも阿部寛が出て来ないのが、逆にプラスになってたしなあ。

そうそう、阿部寛が2回も病院に搬送されて来た時の竹内結子の悪寒演技。あれって何か、ちょっとしたパニック障害というか過呼吸発作に見えちゃったのはボクだけかな?個人的経験談になっちゃうけど、自分が会社で倒れた時、あんな風に予兆を感じた事があったから。まあこの点については完全に余談なんですねどね(^^;

最後になりましたが、最初に言ったように、この映画は前作より遥かにレベルアップしている反面、田口先生が女性になっているという事から、本作を純粋に楽しみたいのであれば、原作やドラマの事は忘れて、まず前作の映画版「チーム・バチスタの栄光」を見てからにした方が宜しいかと存じます。以上!