サマーウォーズ







正直言ってこの映画、最初は全くノーマークでした。3年前の「時をかける少女」も見てなかったし、キャラデザインがエヴァンゲリオンと同じ人の割にヲタ系アニメの匂いが全くしない絵だし、何よりストーリーが原作のない完全オリジナル作品という事で、食指は全く動かなかったのです。

ところが、いつの間にかなぜか視界に入って来て「どんなストーリーなんだろう?」と少しずつ気になり始めました。根拠は全くないんだけど、「もしかしたら、これって凄く面白い話かもしれない」と思うようになりました。こういう風に感じるのって、15年以上前にいきなりテレビで放送した氷室冴子原作の名作アニメ「海がきこえる」以来でした。何となく絵から感じる雰囲気も似ているような気がしたし。こういう根拠のない直感って大当たりか大外れのどっちかになるんだけど、結論から言えば、観に行って大正解でした!で1回じゃ満足できなかったのと、最近の映画じゃ珍しくロングラン上映している事から、何度も観に行く事になってしまったのです。これってここ数年じゃありない事だよ!去年の名作「アフタースクール」だって、2回で充分満足できたのに。

>第1戦

全く予備知識なしで映画館に行ったけど、いきなり結論から言えば、あらゆる相反するものを並列して物語を構成し、尚かつ山場につぐ山場、序盤の伏線の回収方法などが抜群でした。全世界がネットで繋がってる仮想世界と、田舎に集まる旧家の大家族。バーチャル空間で繰り広げるバトルモードと、ラブマシーンのせいで混乱する現実社会。灼熱のアウトドアスポーツの代名詞である高校野球と、インドアゲームの花札。あらゆるものを集合させ、それを随所に配置しているのが全く違和感なかった!

そして「お約束」とも言える『許嫁役を連れて帰郷』。一見冴えない子が、実はとんでもない能力の持ち主だったり、格闘ゲームの世界チャンピオン。絶妙のタイミングで帰って来る一族の異端児に、突然寿命を迎える一家の大黒柱。ありがちな展開なのに、それを提示する場面がピタリ世界観に符号しているから、見ているボクはビックリしたし。

あと逆に意外性が強かったのが、ラブマシーンとの対決が順を追う事にどんどんスケールアップしていった事。普通なら「最初は子分→ラスボスとの対決は最後の1回」がお約束なのに。最初は普通の格闘ゲーム風だったのが、次は高スペックパソコンを使ってのリベンジマッチ。そして原発を人質にしながらの花札対決。最後は何と疑似乱数を使った暗号解読で決着。特に最後のふたつは、「掛け金不足で絶望→アカウント提供者1億人突破でスペックアップ」という感動シーンと、「暗算で高度な数列暗号を解読」なんて無茶苦茶でもなぜか説得力のあるラスト。

特に前述した感動シーンは、「仮想世界だけど、そこに来る人たちは現実にいる人たち」というのが前提としてあるから、そこに「アカウント」という形の無いものを提供して「私たちの大切な人を守ってください」という一歩間違うと陳腐な台詞も全く違和感なく、世界中の人たちがモニターを通じて応援するなんて場面を演出できている。こんなの普通に考えたらありえねーよ!それが全く違和感ないのは、やっぱり凄い!

こんな凄い話を見せられたら、ノベライズ本で二次補完したくなるのは当然で、終わったその足で、本屋に向かったのでした。

>第2戦

でさっそく購入して、近くの店に入ってコーヒーを飲みながら読んだけど、映画じゃ描ききれなかった登場人物の心理描写が、これまた抜群!特に侘助さんのツンデレぶり(笑)や、健二がヘタレでも「自分に出来る事を何とかしてやってみよう」と少しずつ頑張ろうとする心情。そして尺の関係なのか、映画で言えなかった台詞を盛り込んでいたり、ラストには笑える「大茶番的告白」があったり、「自衛隊内でも、ちょっと人には言えないトコロ」に就職勧誘される健二。それでも映画の世界観を全く壊していなくて、むしろ「裏ではこういう場面もあったんだろうなあ」と想像できる小説になっていて、ますます映画の良さが引き出されている。こんなノベライズ本は、なかなか書けないよなあ。

また。とんでもない破壊力なのが、大おばあちゃんの遺言書。「どんな辛い時でも、家族みんなで手を取り合って、一緒にご飯を食べる事。いちばんいけないのは、お腹をすかしている事と、ひとりでいる事なんだから」の部分は、映画館で台詞を耳で聞いてもクるものがあったけど、こうして活字になったものを咀嚼して目で読んでみると、さらにクるものがあるというものです。

こうして文庫本を毎日読んで映画の内容を思い出していると、どんどん描ききれなかった部分が脳内補完されていき、また映画館に足を運びたくなって来るというものです。

>第3戦

小説版を読んでから映画を見ると、「脳内補完している部分」もちゃんと描いてほしかったな〜という忸怩たる思いがある反面、補完されているおかげで、説明不足だった部分もキッチリ納得できたり、やっぱり同じ映画でも2回見て正解だったな〜という満足感が大きかったです。

また、2回目という事で、最初には気付かなかった点がいくつかあったけど、その中でいちばん大きかったのが、ラブマシーンとのリベンジマッチに備える男性陣。決戦に備えてスパコンを自分の店から持って来たり、電源代わりに港から船を持って来たり、挙げ句には近くの駐屯地から(どうみても正規の手続きを踏んで持ち出せる代物には見えない)通信回線付き車両に乗って来たりと、まるで「劇場版パトレイバー」2作であった『決戦へ赴く前の出撃準備』を彷彿としていて、背景は牧歌的なのに超燃えた!その裏で高校野球に燃える球児とその母、葬式の準備をする女性陣がいたりと、小説版の言葉を借りれば「人にはそれぞれの闘いがある」光景の書き方が抜群でした。

>第4戦

2回目の映画鑑賞を終えて、さらに小説版を読むと、夏希と佳主馬に対する補完がいちばん多い気がしました。夏希はヒロインなのに、なぜか健二に恋人役を頼んでいるけど、その理由を「時代錯誤なほどの恋愛観」と映画にはないユーモアを交えて描写しているし、佳主馬に対しては、「負け戦でも果敢に挑んで行く」心情が映画版以上に伝わって来るし。他にもいろいろあるんですけど、この二つが双璧でしたね。ただキング・カズマが最後にラブマシーンを倒す場面は、映画版の方が良かったなあ。小説と映画とじゃ、健二の暗号解読と侘助の解体作業完了の順序が逆になってるし、ラブマシーンがボコられてバラバラになっていく光景も、小説版じゃ衛星が墜落した直後になってるから。

>第5戦以降

ここまで来ると、もう満足になるかと思ったら、「100万人突破で、異例のロングラン上映決定!」の報道を聞いて、またまた行きたくなりました。ここまで熱中してくると、ハイライト場面の度に「キター!!」と叫びたくなるし、攻勢の時は「よしよし行け〜!」と本物の格闘技を見て応援しているような心境になったり。何となく中毒性がある上に、ロングランというだけでもうお祭り気分になっちゃうし。たぶん10月上旬までは間違いなく続くだろうけど、一体いつまで上映してくれるかな?こうなったら「冬になってもサマーウォーズ」とばかりに、年末興行戦争まで雪崩れ込んでほしい気もしますけど、11月までいけば御の字かもなあ。

>グランドフィナーレ(追記)

結局、通常ロードショーは10月末か11月上旬くらいで終わったような感じ(この辺記憶があやふや)だけど、3月3日のDVD発売のド直前まで、1週間限定とか1回限りの単発上映が何度もあり、ボクも「日本アカデミー賞優秀賞受賞記念上映会」が2010年2月19日にあったのを観に行って、通算10回も映画館へ足を運んでしまいました。おまけに作品の舞台となった長野県上田市にまで「聖地巡礼」までやっちゃうし、こんな中毒性の高い作品は、もしかすると二度と出て来ないかもなあ。