椿三十郎






この映画の話を最初聞いた時「ただのリメイク?」と思ったらひと味違った!何と黒澤明が書いたオリジナルの脚本をそのまま使うって言うじゃない!まずこれだけでも度肝を抜かれましたね。普通の監督なら、少しは自分なりの解釈を加えた場面とか台詞を今風に替えたいとか「欲」があっても不思議じゃないのにね。

でも結論から言うと、変えないで大正解!下手に手を加えなくても、織田裕二が言うように「今でも充分通用する内容」だったもん。そして昔のままの台詞でも立派に演じた織田裕二&豊川悦司も凄かった!宣伝コピーじゃないけど「この男、今の時代を生きている」人たちばっかりだったもん。

特にビックリしたのが、織田裕二&豊川悦司と若侍9人の対比のさせ方。どこまでも頭が切れて腕も立つ主人公&ライバルと、どこまでもヘタレなくせに正論振りかざすヒヨッコども。大山倍達総裁が言うように「力なき正義は無力。正義なき力は暴力」を地で行く連中だったもんなあ。

だってオリジナルが作られた頃には「ヘタレ」なんて概念ないはずなのに、今に当てはめたらその言葉がピッタリなんだもん(笑)ノコノコと悪事の黒幕に相談に行き、織田裕二に助けてもらわなかったら切腹間違い無し。その後も「あいつ信じていいのか?」と懐疑的で尾行したら敵に捕まり人質に。結局最後まで足手まといというか「傍観者」でしかなかった訳で。だからこそ織田裕二のかっこよさが際立ったと言うか。

そう考えると、昔の映画はちゃんと役割分担させて「いかに主人公を格好良く見せるか」を考えていたんだね〜。今じゃ事務所やタレント同士の事を考え「脇役でもそれなりの見せ場を」と思うもんね。だからネームバリューから言ったら圧倒的に出番の少なかった佐々木蔵之助だって、幕間の「押し入れ侍」に徹するから笑えた訳で。

で衝撃のラスト。お互い認め合ってるけど、裏切られたから主君への仁義を考え「斬らなきゃならねえんだよ!」と闘いを挑む豊川悦司に対し、「俺たちが斬り合って何になる?」と浪人なりの正論を吐く織田裕二。一脈通じ合う所はあっても、結局は立場が違う事から斬り合わないとならないなんで切ないねえ。だから勝ってもちっとも嬉しくないし、「お見事!」と言われたって「聞いた風な事言うんじゃねえ!(怒)」と怒鳴って立ち去る訳で。でも相手の気持ちを理解してるから、相手から奪った刀を鞘に納めて返してあげるんだよね。この辺が「漢同士の不器用な友情」なんだろうなあ。

蛇足1:映画館に行くと、てっきり織田裕二ファンの若い子ばかりだと思っていたら、意外にも年配層の客が多かったのに驚いた!きっと「『椿三十郎』が昔の脚本のままで作り直したんなら見に行こうかな」という往年の映画ファンが足を運んだんだろうなあ。

蛇足2:吉岡平の「妖世紀水滸伝」で名前を聞かれた男が柊の花を見ながら「今は冬だから・・・柊。柊三十郎と申します」と言うシーンがあったけど、あれってこれのパロディだったんだね(笑)